当時、広島国際学院高校2年の金谷と、埼玉県の加須市立大利根中学3年の中島が、決勝で36ホールのマッチプレーを戦い、10&9で金谷が史上最年少優勝を達成。
2人の“抜きつ抜かれつ”の原点だ。
その後、共にアマ選抜のナショナルチームで活躍。
金谷は、2019年からプロ転向の2020年10月まで世界アマランク1位に就き、2020年11月から引き継いだ中島は、2022年9月のプロ転向まで君臨を続けた。
ツアーでは、金谷が19年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」で史上4人目のアマVを達成し、中島は2021年の「パナソニックオープン」で同5人目に続いた。
それより前に中島は、同年の開幕戦「東建ホームメイトカップ」でも一度、アマVに迫っている。
だが、金谷に1差で敗れて泣いていた。
いつも金谷に立ちはだかれた。
いつも金谷を追いかけてきた。
今回も、賞金1位に躍り出たのは金谷のほうが先だった。
6月のJGTO主催「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」で2位の中島に2差をつけて優勝し、接戦の口火を切った。
中島が、プレーオフ2ホールで金谷を破ったのは、すぐ翌週の6月「ASO飯塚チャレンジドゴルフトーナメント」だ。
涙ながらにプロでの初勝利を掴むと、次の日韓「ハナ銀行インビテーショナル」(2位)では、金谷から賞金1位を奪還。
今度は中島が初めて賞金1位に立ち、以後は2人だけの“抜きつ抜かれつ”を始める契機でもあった。
中島は昨年9月のプロ転向時に体調を崩した余波もあり、今年序盤は本調子でなかったという。
だが、コーチやトレーナーさんや、キャディさんらの献身もあり、5月の「ミズノオープン」から5試合連続の最終日最終組を演じたり、誰もが疲労をため込む終盤戦も右肩上がりに調子を上げて、転戦中もトレーニングを休まず、むしろますます練習量を増やすなど、終わりに近づくほどエンジンを加速していった。
賞金王に破れた金谷がいう。「中島選手は1年間を通して安定したプレーをした。最終盤のプレッシャーでかかった中で力を出す、というのは強さの証拠」。
今季2勝目、アマプロ通算3勝目を飾った8月の「横浜ミナト Championship ~Fujiki Centennial~」は初めて泣かずに優勝し、泣き虫ケイタも返上した。
金谷も9月の「フジサンケイクラシック」で2勝を挙げ、また賞金1位になったがそれも一瞬で、今度は中島が翌週の「Shinhan Donghae Open」(大会3位)ですぐ返り咲くなど、バチバチは続いた。
ひとつ転機となったのが、中島が今季唯一の予選敗退し、また賞金2位に後退した10月の「バンテリン東海クラシック」からだ。
次戦の「日本オープン」は28位に終わり、翌週の日米「ZOZOチャンピオンシップ」は67位。
今年のひとつの山場で惨敗したあと1週間の空き週に、心と体を一新して戻った中島は、11月最初の「マイナビABCチャンピオンシップ」で絶好調をアピールし、有言実行の今季3勝目を飾った。
その週の賞金1位にかかっていた、米二部コーンフェリーツアーの最終予選(12月)の挑戦権も勝ち取り、再び賞金1位に就くと、そのまま一気に初戴冠に持ち込んだのである。
ナショナルチーム時の遠征では、エースとしてよく同部屋になったという2人。
「その頃から行動を一緒にして、彼の志の高さや、ゴルフに取り組む姿勢が他の選手よりずば抜けているのを見てきた」と、金谷は言う。
「元からレベルは高いのですが、今年は開幕から多くプレーすることがあり、一緒にやるたびに、いろいろなシチュエーションでも上手く打てるようになっていたり、難しい場面からのパーセーブだったり、試合ごとに上達しているのが見えていた。彼の努力」と、改めて称えた。
中島とは「ゴルフで会話ができるような・・・。会話も必要ない」という希有な関係性。
ジュニア時代から引き合う2人は、多くを語らずともわかり合えるようになっていった。
「彼とのプレーが一番手強いし、一番楽しい。毎週、毎週、彼と勝負をするのが好きだった。それが終わってしまったのは寂しい」と、言った金谷に中島は「来週も、一緒に優勝争いしましょう」と、呼びかけた。
「優しい・・・」と金谷。緊張が続いていた頬をやっと緩めて、「本当に、彼の素晴らしさはゴルフだけじゃない。人柄も僕は大好きなので」。
「僕も好きです」と、中島。
「金谷さんはスポーツマンシップだったり、アスリートの心を持たれている方。どっちが勝っても負けても気持ちいい試合になりますし、そういう戦いを1年間やってこられたのはすごく光栄」と褒め返し、「金谷さんがいなければ、自分もここまで粘れなかったし金谷さんが相手じゃなかったら、賞金王にもなれていたか分からない。金谷さんと賞金争いできたことを嬉しく思うし、また勝てたということは、すごく自信になる。これから2人で、海外に行っても、この関係性を続けられたら」。
賞金レースは終戦したが、これで終わりじゃない。
ケイタとタクミの物語りにはまだまだ続きがある。