キャディをつとめるのは、プロ15年目の先輩、中西直人(なかにし・なおと)だ。
前半インでボギーなしの4バーディと、快調にゴルフを続ける竹山の隣で、何やら不穏な言動を…。
「頼む、ボギー打ってくれー」。
「ちょっと、まぢで予選落ちしてくれへんかな?」。
ずいぶんなことを言われても、本人はちっとも気にしていないようだ。
むしろ、「直人さんがそんな風に笑わせてくれたから、バーディ獲っても調子に乗らずにやれた」と、感謝する。
後半アウトの7番では、中西の狙い(?)どおりにいよいよ初ボギーが来た。
でも、「そこから気持ちを切り替え残り2ホールいい感じで上れた」と、8、9番で連続バーディ。
各日の順位では自己ベストの4位タイにつけた。
2人にとってはまさに「奇跡」の好発進となった。
竹山が、脳梗塞と椎骨動脈乖離(ついこつどうみゃくかいり)を併発したのは昨年末だ。
中西らと回りに行った兵庫県内のゴルフ場で、スタート前のストレッチ中に異変を感じ、中西に助けを求めたあとの記憶が、本人にはない。
中西と、ゴルフ場さんの迅速な対応で、すぐに救急車で運ばれ、緊急手術を受け、一命はとりとめたが、右半身に麻痺が残り、完治は難しいと言われた。
だがその後、1か月半の入院とリハビリ生活を経て、2月半ばにはクラブを握り、昨季のファイナルQT6位の資格で挑む開幕戦のリーダーボードに紛れている。
「本当に信じられない。奇跡ですよ」と、声を揃える。
「開幕戦に間に合うかもしれない」と、竹山が連絡してきたとき、驚異の回復力にまさかと驚く一方で、竹山が倒れた当時のショックを忘れられずにいた中西は、「俺がキャディをしたる」と、即断した。
「プレーのことより、心配が勝つ。とにかく体に負担がかからないように。ストレスなく回って欲しい」と、隣で懸命に軽口をたたいて歩いている。
「最初は死ぬこと以外に怖いことはない、と思ってましたが、いざコースではショートパットが怖いし、OBも怖いし」と言って、竹山もつとめて明るく笑う。
「不安はありますけど、ゴルフができること自体が奇跡なので。とにかく楽しく生きていこう」と、中西の思いに懸命に応える。
術後のリハビリで、むしろ体幹が鍛えられ、前より飛距離が伸びたという。
「ケガの功名じゃないですが。自分の弱さも分かりましたし、ちょっとうまくなって戻ってきました」と、好発進におどけた。
「毎日、楽しく生きていたつもりだったけど、どこか無理をしていたのかな」と、倒れる以前の自分を顧み、「今は食事にも気をつけて、毎朝、嫌いなトマトジュースを飲んでいます」と、顔をしかめてみせた。
女子プロゴルファーのお姉さんの影響で、8歳からゴルフを始めた。
興国高校から東北福祉大に進み、1年先輩の金谷拓実(かなや・たくみ)の背中を追い、練習を重ねた。
「僕も、金谷さんみたいに賞金王だったり、大きな目標はある。でも、今は生きることで精いっぱい。健康にゴルフができることが幸せです」。
今はただ、恩人との二人三脚を踏みしめている。